帝王切開後の経腟分娩 TOLAC VBAC
Q:帝王切開後は、必ず帝王切開? 経腟分娩はできない?
実は、この問題、帝王切開が医療として普及した100年前から現在まで、数多くの議論が行われたにもかかわらず、どちらが良いのか、いまだに解決していません。
頻度は少ない(0.5~0.7%位)とはいえ、子宮破裂という危険があるのは事実なので、昔から「Once a cesarean, always a cesarean(一回帝王切開したら次からは帝王切開)」というセオリーがあります。
一方、帝王切開には麻酔・手術のリスクがあるので、多数例で比較すると、慎重な経腟分娩よりも、全てを予定帝王切開にする方が、母体死亡などのリスクは高くなるという報告もあります。
1990年代、帝王切開率の増加を危惧して、学会が、帝王切開後の経腟分娩を、前向きに勧める時期があり、この頃は、帝王切開後の経腟分娩を、VBAC(ブイバック)といって、かなり多くの施設で行われていました。
しかし、2000年以降、骨盤位や双胎なども、リスク回避のために予定帝王切開となることが増え、以前に比べ、一般の方の帝王切開に対する抵抗感も少なくなり、前回帝王切開の場合、多くの施設で、反復帝王切開されるようになりました。
もし、帝王切開後に経腟分娩を行う場合には、試験的(トライアル)分娩として、より慎重に行うという意味を込めて、TOLAC(帝王切開後の試験分娩)という表現が使われています。
24時間、複数の産科医と麻酔医が常駐し、緊急輸血などの準備が整っている施設では、TOLACは十分可能な手段です。医療施設の環境整備やスタッフの労力を厭わなければ、全てを予定帝王切開にする方針よりも安全かもしれません。
TOLAC 日本産婦人科学会のガイドライン2020
などに加えて、TOLACの希望がある妊婦には、妊娠の早い時期に、リスクについて文書による説明の上で、同意書を作成すること、試験分娩を慎重に管理するための基準などが示されています。
【筆者コメント】
最盛期に、VBACを500件以上扱った経験からは、70%はトラブルなく経腟分娩で生まれ、残り30%は、何らかの理由で帝王切開になります。幸い、重症の子宮破裂は経験しませんでしたが、緊急帝王切開時に破裂寸前だったことも多く、通常の分娩管理よりも慎重な管理が必要です。
総合周産期センターのような充実した医療環境で、TOLACに取り組んでいるところがあります。アクセス可能であれば良いのですが、現実には、多くの地域で難しいかもしれません。
TOLAC Traial Of Labor After Cesarean トーラック
試験的経腟分娩 慎重に経腟分娩を試みる
VBAC Vaginal Birth After Cesarean ブイバック
帝王切開後 経腟分娩に成功(主に1990年代の表現)