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妊娠と便秘

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妊娠中は便秘になりやすい

妊娠中に増加する黄体ホルモンは、子宮の収縮を抑えるだけでなく、大腸のぜん動運動(便を運ぶ働き)も抑えるので、便秘になりやすくなります。また、つわりで体重が5%以上減少する脱水状態では、大腸で水分の再吸収が促され便が硬くなり、便秘になります。

  • 妊娠中に分泌が増加する黄体ホルモンが、大腸の働きも抑える。
  • つわりで水分や食物の摂取が減少し、便秘になりやすい。
  • 子宮が大きくなると、排便時に息みにくくなる。

 

排便は、呼吸や排尿と同様、私たちに必須の生理現象です。少なくとも1週間に3回の排便を維持しましょう。3日以上の便秘を放置すると、次のような便秘トラブルを起こす可能性があります。

 

便秘トラブルの実際

 意外かもしれませんが、便秘トラブルは妊娠前に便秘ではなかった人や、便秘対策をしたことがない人に多く、妊娠前から便秘症の人は早めに対策をするので、あまり便秘トラブルになりません。便秘トラブルの実例を紹介します。

便秘トラブル ケース1

深夜午前3時。妊婦の夫から、慌てた声で電話、

「妻がおなかを抱えて、苦しい表情で痛がっている!」

本人と、電話を代われないかと聞くと、

「なにぃ、本人が出られないから、電話してるんじゃないか! とにかく、これから救急車で行くから、すぐ診てくれ……」

10分ほどで救急車で来院。すぐに診察台に移ってもらい、診察、検査を行うと、子宮や胎盤に異常は認めず、エコーで胎児も元気そうなので、少し安心して、本人に確認のため、

「最近、便秘とか、大丈夫ですか?」と聞くと、

「(痛みをこらえながら、言いにくそうに)はい、最近……」

「そうですね、まさか便秘で、こんな症状になるとは思わなかったでしょう」

浣腸しても出ないので、助産師が指で便をかき出すと、積み重なっていた硬い便の塊が20個ほど出てきて、腹痛症状は治まりました。

本人が落ち着いて笑顔になってから、夫にも入ってもらい、

「妊娠中の腹痛は、重大な病気なこともありますが……、でも、まさか便秘で、こんなにことになるとは、ねぇ、予想もしなかったでしょう。毎年、ありますが、便秘の経験がない人に多いんです」

 便秘トラブル ケース2

 外来に、妊娠7ヶ月の妊婦が、苦しい表情で歩きにくそうに来院。診察すると、肛門周囲がテニスボール大に膨隆し、2cmほど開いた肛門の穴の奥に、鶏卵より大きい便塊が見えて、肛門粘膜はひび割れ、出血している。痛々しい!

 聞くと、最近、便秘だったけど、薬は飲めないと思って、便が溜まったら肛門に指を入れてかき出していたとのこと、

「今日は指が入らなくて、浣腸してトイレで30分ほど息んでたら、こんなになってしまって……」

局所麻酔のゼリーを塗り、膨らんだ肛門を押して便塊を中に戻してから、指先を奥に入れて塊の先頭を壊すと、何日分だろうかという量の便が、ドドッと続いて出てきました。

恥ずかしそうに、でもホッとした表情の本人に、

「便秘がちの人が、正しい対策をしないと、よくあるんです……、もう二度と、こんな経験したくないでしょ?」

と声をかけると、無言でうなずいている。

 

妊娠中の便秘対策

 便秘対策に秘策はありません。まずは、生活習慣や食習慣を見直し、それで便秘が解消しない場合に、整腸剤、硬水、食物線維サプリメント、非刺激性便秘薬などを使用します。

 

生活習慣 

   朝起きたら、まず水を200ml以上飲む。

   朝食を必ず食べる。

   生理現象に逆らわず、尿意、便意があれば我慢しない。

 

飲水・食習慣

 水分2000ml以上、食物繊維、乳酸菌食品を、毎日欠かさず摂る。

 

整腸剤(乳酸菌製剤) 

ビオフェルミンS、ビオスリー、エビオス整腸薬など乳酸菌製剤には、便秘の予防効果があります。これらは指定医薬部外品で妊娠中も使用できます。

これらの製品で便秘が解消できれば、処方薬よりも安全でお勧めです。ドラッグストアなどで入手できますが、妊娠中の使用が心配な方は健診で医師に相談してみましょう。

 

 硬水ミネラルウォーター

硬水に含まれるミネラルの働きで、便秘が改善します。好き嫌いがありますが、硬水が飲みやすく便通も良いと感じられる人は、妊娠中の便秘対策としてお勧めです。「硬水を飲むと便が緩くなって……」という方は、やめておきましょう。

コントレックス

エビアン

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食物繊維サプリメント

イージーファイバー、ネイチャーメイド食物線維などのサプリメントも、妊娠中に摂取可能です。目安量の範囲内で、自分に合った量を服用しましょう。

 

以上の対策を組み合わせることで、ほとんどの方の便秘は改善しますが、もし、改善がなければ非刺激性便秘薬の利用を考慮します。

 

 非刺激性便秘薬(酸化マグネシウム

整腸剤、硬水、食物線維などで便秘が解消しない場合は、医師の指示で、非刺激性便秘薬の酸化マグネシウムを使用します。処方名にはマグミットがあります。指示された範囲内で少ない量から始め、自分に合った服用量を使用します。人により適量は異なりますが、排便習慣が整うと、薬が不要になる方もおられます。

市販の酸化マグネシウム便秘薬も服用できますが、使用に際して医師・薬剤師に相談することになっています。使用して良いかどうか妊婦健診で相談してみましょう。

酸化マグネシウムE便秘薬

 

刺激性便秘薬

一般的に「下剤」と言われる刺激性便秘薬は、病的な便秘症の治療として使われる薬なので、妊娠中の便秘対策(予防策)としてはお勧めできません。妊娠中に使用してはいけない薬剤ではありませんが、刺激性便秘薬には子宮収縮作用のある成分が含まれており、使用量によっては流産につながる可能性があります。

妊娠前から便秘症で、刺激性便秘薬を使用している方は、妊婦健診で医師に処方してもらい、適切に使用しましょう。

 

妊娠前は、頑固な便秘で刺激性便秘薬を常用していた人が、産休などで時間の余裕ができ、自分に合った便秘対策により排便習慣が整い、健康的で理想的な排便「11回、息むことないスムーズな排便と、排便後の満足感」を取り戻す方もおられます。